戦争と女

 それでまぁ、俺ら子どもって、17(歳)か。だからある程度は、引き揚げに対してなんかいろいろなことがあるだろうなぁと、暴動が列車襲ったり、な、することもあるだろうなって、子ども心に思っとったんや。

 17のとき。列車、貨物列車やで。日本でも走ってるやろ。貨物列車にな、何両あったかな、結構長かった。10両くらいあったかな。お互いにこうわかれて乗って引き揚げてきたんや。

 子ども心に何かあるだろうな〜って、何か暴動でもけーへんかなーっ思いよった。そしたらそんなにないんや、最初のうちはな。かえってな、駅に止まるでしょそしたら、チャイナ、いうたら怒られるけど、向こうの原住民がいろいろと物を持って売りに来るわけや。いろいろとね、食べ物を。あれ買ってくれこれ買ってくれやって。まだ日本人金もっとったから、ようみんな買って食べよった。

 俺はそんな持ってなかったけど。それがな親父がな、負けたときに何かあったら困るから、あんとき、あそこの価格で1000円か。兄弟に、これ持っとけよと。間違いあったらこれで生活しろよって。で終戦になって金を貰たんだけど、その金をな、性格通りあほやからな、その金をな、いらんことに使ってもうて。

 持ってへんかったけど、引き揚げの最中は金要らないから、一銭も俺らは。結局弁当買うのにも何買うのにもまんじゅう買うのにも親父が出してくれよったからな。だから、金使うことはなかったけどな、最初はそういう調子やったからな、「あぁ引き揚げってそんなたいしたことない」って思っとった。

 そしてあるときな、途中で、一晩列車のそばで寝たことがある。列車が動かんから。で、中国の兵隊さんが来て、今晩一人女をだせっていうてきたんや。それで初めて「負けたんだな」「負けたらこういうことがあるんだな」。

 女だせったって、簡単にあんた行ってくれ、こっち来てくれって言えへんやろ?

 そしたら、引き揚げる前に遊郭をしてた、ここでいう飛田みたいなとこ、そういう子が、まぁどんな話をしたんかしらんけども「じゃー行ってきます」いうて、一晩中国、中国軍の政府軍の兵隊の、こう、夜伽みたいなもんで一晩泊まったわけ。「あぁやっぱりな」っと思ってな。

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17歳で満州からの引き揚げを経験した元ホームレスの男性の語りです。今年出版される(予定の)私のインタビュー集に掲載される生活史の、ほんの一部です。

ある政治家の発言の影響で、戦争と性暴力が話題になっていたので、ふと思い立って掲載しました。書店に並んでいたら買ってください(笑)

差別的な表現も含まれていますが、語られたまま記録しました。

戦争、戦時性暴力、あるいは性暴力一般、さらにセックスワークの問題についてここで議論はしませんが、例の発言やそれに続く論争を見ていて、「戦争とはそういうものだ」「男とはそういうものだ」という一言で片付けたりせず、野蛮なものは野蛮だと、嫌なものは嫌だと、言いつづけることが大事なのかもしれない、と思いました。

第4回 大阪社会調査研究会

**追記/会場に変更はありません、予定通りおこないます**

第4回大阪社会調査研究会のお知らせです。

日時:2013年5月18日(土)13時~
場所:龍谷大学梅田キャンパス

報告:齋藤直子(大阪樟蔭女子大学非常勤講師)

テーマ:「部落問題の現在──都市部落の変容と結婚差別を中心に」

部落問題の基礎的な知識から、最新の調査結果を踏まえた都市部落の実態、若者の暮らし、結婚差別の現状まで、詳しく議論します。

部落問題についてイチから学ぶチャンスです! 参加無料、予約不要。

エレベーターを待つあいだ

こないだ大学の研究室から授業に行くときにエレベーターが来るのを待ってて、このエレベーターがクソほど遅い。時間が迫ってたのでイライラしてた。イライラしながら一瞬、しょうもない空想をしてた。

これ、1階から2階や3階に行く学生がたくさん乗ってくるんだよな。だからどうしても授業の合間の、ちょうどこっちも乗らないかんときにノロノロ運転になって、こっちは仕事なのに、いつもイライラさせられるんだよな。

学生がエレベーター乗るの禁止しろって教授会で言うたろか。

(笑)アホか、通らんわそんな話。ていうか学生かわいそうだし。

でも、もし通ったら、そっちのほうが怖いっていうか、学生がかわいそうなことになるな。

学生にエレベーターの使用を禁止したときに、やっぱりたまたまそのとき体調が悪いとか、体に障碍があるとか、いろんな事情でどうしてもエレベーターを使わないといけない学生が、いちじるしい不利益を蒙るよね。それは避けないといけない。

だから、たぶん、もしどうしても事情があってエレベーターを使いたい学生がいたらどうするの。っていう話になるな。

たぶん、教授会で誰かが「教務課で使用許可を出せばいい」って言い出すんじゃないかな。で、「エレベーター使用許可願い」みたいな書類の様式ができて、使いたい学生はいちいち教務課に申請に行くの。理由書とか、そのつど一筆書かされて。さらに、やっぱり官僚組織のことやから「診断書出せ」とか言いかねん。

身体障碍のある学生はどうするの。医師による「障碍証明書」とか。事務で手帳を見せる?

で、教務課で朝イチで「エレベーター使用許可願い」を出したら、その学生にはネームプレートみたいなものが貸し出されて、学生はそれを首からかけてエレベーターに乗るねん。で、たまにそれをかけ忘れてたりとか。教員とか職員は、ネームプレートを首から下げてない学生がエレベーター乗ってきたら注意しないといけない。

友だちと一緒にいても、許可を得た学生しかエレベーター乗れないから、他の学生たちは階段を使わないといけない。

車椅子を使用する学生には「定期券」みたいなのが支給される。その学生はずっとそれを表示してないといけない。車椅子乗ってるのに。

授業の最中に急に気分が悪くなった学生が、許可申請せずにエレベーターに乗って、それを見とがめて叱った教員とトラブルになって、ハラスメントの訴え起こされるとか。

もう、手にとるようにわかる。目に見える。

そこまで勝手に空想して心底うんざりしたところでエレベーターが来た。

組織が苦手です。